三国志 第七巻


吉川英治


三国志(7)(吉川英治歴史時代文庫 39)

三国志(7)(吉川英治歴史時代文庫 39)




哀しいかな、錚々たる英雄達が、雪崩れのごとく落命する。
いよいよ、三国志の物語は、終焉に向かう。




黄巾の乱」に始まった三国志序曲は、
董卓軍対連合軍」「中原争乱と曹操台頭」「荊州攻防、赤壁の戦い」と、
ここまで一気に駆け上がっていく。
そして、本巻「美髯公関羽の死」から、次巻クライマックス「五丈原の戦い」へ突入していく。




やはり、三国志は、生身の人間を描く。
  ---"老い"とは。
     孔明渾身の未来への手紙 "出師の表"とは。




涙なしには、、、
どうぞ、泣ける詩を。




<第七巻の(kanjin78的)名場面>


 美髯公、最後の一騎打ち。
 次世代への望みを託して。



いよいよ、両陣の相接した日、関羽は馬を出して徐晃と出会った。徐晃はうしろに十余人の猛将をつれていた。
馬上、礼をほどこし、さて、彼はいう。
「一別以来、いつか数年、想わざりき将軍の鬢髪、ことごとく雪の如くなるを。---昔それがし壮年の日、親しく教えをこうむりしこと、いまも忘却は仕らぬ。今日、幸いにお顔を拝す。感慨まことに無量。よろこびにたえません」
「おお、徐晃なるか。ご辺も近来赫々と英名を成す。ひそかに関羽も慶賀しておる。さはいえ何故、わが子関平に、苛烈なるか。昔日の親密を忘れずとあらば、人に功は譲っても、自身は後陣に潜むべきではないか」
「否とよ将軍、すでにお忘れありしか。むかし少年の日、あなたが我に教えた語には、大義親を滅すとあったではないか。---それっ諸将。あの白髪首を争い奪れっ。恩賞は望みのままぞ!」
大声一呼、馬蹄に土を蹴るやいなや、うしろの猛将たちと共に、彼も斧をふるって、関羽へ撃ってかかった。
われ老いず! われ老いず! と関羽は自己を叱咤しつつ、雷閃雷霆のなかに数十合の青龍刀を揮った。




 語る、吉川英治



加うるに、劉備孔明も、いささか関羽の勇略をたのみすぎていた。忠烈勇智、実に関羽は当代の名将にちがいなかった。けれどそれにしても限度がある。ひとたびその荊州の足場を失っては、さすがの関羽も、末路の惨、老来の戦い疲れ、描くにも忍びないものがある。全土の戦雲今やたけなわの折に、この大将星が耀として麦城の草に落命するのを境として、三国の大戦史は、これまでを前三国志と呼ぶべく、これから先を後三国志といってもよかろうと思う。「後三国志」こそは、玄徳の遺孤を奉じて、五丈原頭に倒れる日まで忠涙義血に生涯した諸葛孔明が中心となるものである。出師の表を読んで泣かざるものは男児に非ずとさえ古来われわれの祖先もいっている。誤りなく彼も東洋の人である。以て今日の日本において、この新釈を書く意義を著者も信念するものである。ねがわくは読者もその意義を読んで、常に同根同生の戦乱や権変に禍いさるる華民の友国に寄する理解と関心の一資ともしていただきたい。




ためになる指数 ★★★★☆
おもろー指数  ★★★★☆




いや改めて、この長編は深いと思った今日。