三国志 第八巻
ただ一人。
孔明、最後の戦いが始まる。
吉川英治 著
- 作者: 吉川英治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1989/05/15
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
<第八巻の(kanjin78的)名場面>
年こそ若いが、姜維に対する馬遵の信頼は、そのことによって、古参の宿将も変わらない扱いを示して、
「きょうの危難はのがれたが、明日からの難には、いかに処したらいいであろう」
かまでを、姜維に問うようになった。
姜維は、城の背後を指さして、
「目には見えませんが、あの搦手の裏山には、もう、蜀軍がいっぱい潜んでいましょう。---太守の軍が城を出たらその留守を狙う用意をして」
「え? 伏兵がおるか」
「ご心配には及びません。---彼ノ計ヲ用イテ計ルハ彼ノ力ヲ以テ彼ヲ亡ボス也---です。願わくは太守には、何もご存じない態で、ふたたびご出陣と触れ、城外五十里ほど進み、すぐまた、急にお城へ取って返して下さい。---そして私は別に五十騎を擁して、要害に埋伏し、搦手の山にある敵の伏兵が、虚に乗ってきたところを捕捉殲滅します。---もしその中に孔明でもいてくれれば、こちらの思うつぼです。かならず生捕りにせずにはおきません」
姜維の言は壮気凛々だった。
「死諸葛嚇走活仲達」 ---死せる孔明、生ける仲達を走らす
こう聞いて初めて司馬懿は孔明の死はやはり真実であったのをさとった。急に再び兵を発して長躯追ってみたが、すでに蜀軍の通ったあとには渺として一刷の横雲が山野をひいているのみだった。
「今は、追うも益はない。如かず長安に帰って、予も久々で安臥しよう」
赤岸坡から引っ返して、帰途、孔明の旧陣を見るに、出入りの趾、諸門ガ営の名残り、みな整々と法にかなっている。
司馬懿は、低徊久しゅうして、在りし日の孔明を偲びながら、独りこう呟いたという。
「真に、彼や天下の奇才。おそらくこの地上に、再びかくの如き人を見ることはあるまい」
ためになる指数 ★★★★☆
おもろー指数 ★★★★☆
壮大な人間劇。
またの読む日を楽しみに、本を綴じることにする。