宮本武蔵 第六巻


吉川英治の武蔵は、司馬遼太郎の土方とは違って、
とにかく、真面目だ。


常に己を反省し、また人から学ぼうとする。


人によっては、
この小説の中に延々と続く、探求の旅は、地道で長く永く、
時に、単調かもしれないけれども、
俺はかな〜り、はまった、わけで^^/




 武蔵 対 小次郎
 武蔵 対 お通
 武蔵 対 弟子の育成
 武蔵 対 自然の猛威
 武蔵 対 己の煩悩
 ・・・


 彼の気づきと、成長がとってもおもしろいのだ。




しかし、この巻での醍醐味は、
武蔵が、一人で戦うのではなく、
 時に、軍師として。 村人を統率し、野武士軍団を一掃する下りにある。




歴史に"もし"は無いけれども、
もし彼が、もう少し前に生れていたら、
信長が席巻した戦国時代の様相は、相当変貌していたはず。




と、勝手に妄想しつつ、
今回も三国志と同様に、
この吉川英治宮本武蔵の魅力を味わっていただきたく、
勝手な名場面を。
(なお、軍師宮本武蔵の活躍は、ぜひ小説を手に取っていただきたく!)<第六巻の(kanjin78的)名場面>


 二人目の弟子、三沢伊織。―宮本武蔵にもの申す。



「参らない」
「あの石へ、叩きつければ、おまえは死ぬぞ。それでも参らないか」
「参らない」
「強情な奴だ。もう、貴様の敗けではないか。参ったといえ」
「・・・でも、おらは、生きていれば、おじさんに、きっと勝つものだから、生きているうちは参らない」
「どうして、わしに勝つか」
「―修行して」
「おまえが十年修行すれば、わしも十年修行して行く」
「でも、おじさんは、おいらよりも、年がよけいだから、おらよりも、先へ死ぬだろう」
「・・・む。・・・ウム」
「そしたら、おじさんが、棺桶へはいった時に、撲ってやる。―だから、生きてさえいれば、おらが勝つ」


 その時代にも、誰もが仰いでいただろう、富士山。
 武蔵と、伊織が見た、それ。 



「富士は、一日でも、同じ姿であったことがない」
「同じだよ」
「時と、天候と、見る場所と、春や秋と。―それと観る者のその折々の心次第で」
「・・・・・・」
伊織は、河原の石を拾って、水面を切って遊んでいたが、ひょいと跳んで来て、
「先生、これから、柳生様のお屋敷へ行くんですか」
「さあ、どうするか」
「だって、あそこで、そういったじゃないか」
「一度は、行くつもりだが・・・先様は、大名だからの」
「将軍家の御指南役って、偉いんだろうね」
「うむ」
「おらも大きくなったら、柳生様のようになろう」
「そんな小さい望みを持つんじゃない」
「え。・・・なぜ?」
「富士山をごらん」
「富士山にゃなれないよ」
「あれになろう、これに成ろうと焦心るより、富士のように、黙って、自分を動かないものに作りあげろ。世間へ媚びずに、世間から仰がれるようになれば、自然と自分の値うちは世の人がきめてくれる」


吉川英治


宮本武蔵(六) (吉川英治歴史時代文庫)

宮本武蔵(六) (吉川英治歴史時代文庫)




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